内容監修
草壁 広大
KODAI KUSAKABE
草壁 広大
KODAI KUSAKABE
医師/日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
東京慈恵会医科大学医学部を卒業、国立病院機構 東京医療センターでの初期臨床研修を経て、東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座に入局。産婦人科専門医を取得後、同講座の助教を経て、現在は千葉西総合病院産婦人科に勤務。当院では婦人科診療全般の監修および毎週火曜の婦人科外来を担当。
「更年期」とは閉経を挟んだ前後約10年間のことを指します。
日本人女性の閉経の平均年齢は50歳前後と言われており、一般的には45から55歳が、「更年期」と言われる期間となります。「更年期症状」は、閉経に向けた体の変化に対応できず、体の調子が悪くなって現れる様々な不調のことを言います。
更年期の症状は女性1人1人違います。
症状が軽めの方もいれば、重い症状に悩まされる方もいらっしゃいます。
この記事では、そもそも更年期障害がどういう病気であるかを解説し、原因や症状から、その治療までわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご覧ください。
更年期障害って何?
閉経の前後約10年間の時期において、「ホルモンの変動に伴って生じる心身の不調」を更年期症状と呼びます。
さらに、この更年期症状の中でも、女性の日常生活に影響を与えているもの(困らせているもの)を「更年期障害」と呼びます。
更年期障害の診断には「患者さんが本当に更年期なのか」
つまり、症状を説明できる病気が他に見当たらないことが大切になります。
更年期かなと思っても、甲状腺の病気やうつ病などが隠れていることもあります。
症状でお悩みの方は、まずお気軽に婦人科にてご相談ください。
更年期とホルモンバランスの関係
更年期障害と女性ホルモンの量には関係があります。
上図に示された通り、女性ホルモン(エストロゲン)の量は20-30代をピークにして減少します。更年期は女性ホルモンが減少する時期にあたり、体のバランスが崩れやすくなっています。
そのため、女性ホルモンの乱れによって崩れた女性のからだを基礎から整えて、からだ本来の力で女性の健康を取り戻すことが重要になります。
体調不調の原因
更年期になると、女性ホルモン(エストロゲン)が以前よりも作られにくくなるため、女性ホルモンが不足気味になります。その不足を補おうと、脳は女性ホルモン(エストロゲン)をもっと作るように体へ指令を出します。しかし脳から指令を受けても、更年期の女性の体は女性ホルモンをなかなか作れません。年齢に伴い、女性ホルモンを作る機能自体が下がっているからです。脳から指令を受けても、産生できる女性ホルモンの量はあまり増えません。
その結果、女性ホルモンの不足がなかなか解消できず、脳は女性ホルモンを作る指令をずっと出し続けるようになります。「脳から指令が出続ける」という状態は通常起きません。これにより、女性の体はうまく適応できず、その影響が自律神経にも作用すると考えられています。
このようにして起こる自律神経の異常が、さまざまな体の不調につながるのです。
なぜ更年期障害が起こるのか?
すでにご説明した通り、更年期に入った女性では、卵巣の機能が若い頃よりも低下しています。
卵巣機能の低下による女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって、自律神経に異常が生じてくることが、更年期障害の大きな原因です。
女性ホルモン(エストロゲン)は
・月経や妊娠といった女性の機能
・乳房や性器の発達
・女性らしい体(肌や髪の毛への影響)
に関係する重要なホルモンです。
女性ホルモン(エストロゲン)のバランスが崩れることで、自律神経にも影響がおよび、体や心にさまざまな不調が現れるようになると考えられています。
また、更年期は女性の年齢的に、仕事で責任のあるポジションを任されていたり、子育てや親の介護などの負担が重なったりする時期でもあります。更年期にあたる女性は仕事・家庭の面でもストレスが増えやすいため、精神的なストレスが加わって更年期の症状がより辛くなる方もいらっしゃいます。
更年期障害の代表的な症状って何?
更年期障害の症状に関しては、「身体的な症状」と「精神的な症状」に大きく分けられます。
身体的な症状としては、
・めまい
・肩こり
・動悸
・身体のほてり感
・腰痛
・手足の痛みやしびれ
などがあります。
他にも、関節の痛みや、手足のむくみを感じる方もいらっしゃいます。一方、精神的な症状としては、
・怒りっぽくなる(すぐにイライラする)
・なんとなく憂うつな気分になりやすくなる
・抑うつ傾向となる
・やる気が出ない
といった症状があります。
他にも、精神的に不安定になりがちだったり、もの忘れが現れたりする方もいらっしゃいます。
注意すべき点として、更年期障害の場合、症状や程度は本当に人それぞれであることが挙げられます。
・どんな症状が現れるか
・どのくらい辛いか
は本当に人それぞれ異なるのです。
ほとんど症状を感じない方もいれば、毎日辛くて悩まされている方もいらっしゃいます。
どうすれば更年期障害が解決できる?
更年期のつらさを少しでも解消したい。そのような方のために、
婦人科での治療と並行して、ご自分でできるセルフケアをご紹介します。
運動習慣を作る
運動をすると気分転換になったり、ご飯がおいしく感じられたりしますよね。
運動によるストレス発散効果やリラックス効果は、イライラなどの精神症状や睡眠障害の改善につながります。
特にウォーキングや軽いランニングなどは骨密度の改善を促し、中高年女性に多い骨粗鬆症の予防としても効果的でです。
食事の改善
更年期の女性ではエネルギーや骨の代謝も変化しています。栄養が過剰になったり不足しやすくなったりと、栄養の面でもバランスを崩しやすい状態です。
そのため、「バランスの良い食事」が大切になります。更年期に特化した食事が特別にあるわけではありません。いわゆる、一般的にバランスの良い食事を心がけていただければと思います。
更年期障害にはどんな治療法がある?
すでにご紹介したセルフケアで症状が和らぐ方もいらっしゃいます。
しかし、セルフケアだけでは症状が治らない患者様も少なくありません。
そのような場合は、お気軽に当院へご相談ください。
更年期障害に対しては、健康保険を使って医学的な治療を行うことが可能です。
更年期障害の治療は大きく分けて
・ホルモン補充
・漢方
・精神科のお薬
これら3つに分けられます。
それぞれの特徴を簡単にまとめると次の表のようになります。
ここでは、これら3つの治療法についてさらに解説します。
①ホルモン補充療法(HRT)
減ってしまった女性ホルモン(エストロゲン)を補うことで更年期症状を改善する治療法です。
英語では、Hormone Replacement Therapyといいます。
ホルモン補充療法で使われる薬には色々なタイプがあり、飲み薬・貼り薬(小さい湿布のような感じ)・塗り薬があります。 飲み薬の方が比較的安価な値段となっていますが吸収される際に肝臓や腎臓に負担がかかるため、副作用の観点からは、一般的に貼り薬や塗り薬の使用が推奨される場合が多いです。
ホルモン補充療法は効果が高い治療法とされています。更年期障害だけでなく、加齢に伴って問題になりやすい骨粗鬆症や、高血圧にも効果がある点もメリットです。ただし、ホルモン補充に伴って
・生理のような出血(不正出血)
・胃がムカムカした感じ
・胸が張る感じ
などの副作用が現れることもあります。
また、乳癌などの悪性腫瘍の治療歴がある方や、血液をサラサラにするお薬を飲まれている方などの場合、ホルモン補充療法が使えないこともあります。このため、ホルモン補充療法をスタートする前には、必ず婦人科医師とよくご相談いただくことをおすすめしております。
②漢方
「漢方も治療に使えるの?」と思われた方も少なくないでしょう。
実は、更年期障害に対して漢方の有効性を示唆する研究が多数報告されています。
漢方のメリットとしては「種類が豊富」であることが挙げられます。患者様に合わせて色々な種類の中から、ベストな漢方を選ぶことができます。
また、漢方は自然由来の成分ですから、比較的長い期間ご利用いただけることもメリットです。
ただし、漢方にも副作用があります。頻度は少ないとされていますが、体質によって発疹や胃のムカムカなどが現れることもあります。
また漢方独特の味がお口に合わず、なかなか漢方を飲めないという方もいらっしゃいます。
③抗うつ薬、気分安定薬、睡眠薬
抑うつ気分は多くの人が更年期に経験する症状ですが、気分の落ち込み、不安感や焦燥感が強い場合は、抗不安薬・抗うつ薬などのお薬が有効です。
治療法の選択にあたっては、婦人科専門医が症状を詳しく伺い、採血などの必要な検査を行った上で、患者様にベストな治療法を選択いたします。状況に応じて、精神科や心療内科へご紹介させていただきます。
まとめ
閉経の前後約10年間の時期において、「ホルモンの変動に伴って生じる心身の不調」が更年期症状で、それが「生活に支障をきたす」場合を更年期障害と言います。閉経に向けた変化に対応できずに、体の調子がなかなか整わない状態と言えます。
更年期障害の症状は人それぞれです。症状が軽い方もいらっしゃれば、重い症状に悩まされる方もいらっしゃいます。セルフケアも大切ですが、それだけではコントロールが難しい場合も少なくありません。
もしセルフケアだけでは症状が落ち着かない場合は、お気軽に当院へご相談ください。
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