お腹の中の赤ちゃんの健康状態が分かる出生前診断。
なかでも近年、お母さんの血液から検査できるNIPT(新型出生前診断)が注目されています。
NIPTで分かるのは染色体や遺伝子異常の可能性です。とくに出生前にダウン症を発見するのに役立ちます。
この記事では、NIPTで発見できるダウン症の基礎知識と、検査前に知っておきたいポイントを紹介します。
目次
ダウン症とは
TVやネットニュースなどで目にしたり、聞いたりする機会の多いダウン症は、正式にはダウン症候群と呼ばれ、600〜800人に1人の割合で発症します。
30人クラス、1学年4クラスの小学校に1人以上は在校している計算になり、決して珍しい病気でないことが分かります。
ダウン症の胎児を宿すリスクは、お母さんの年齢によって高くなると考えられていますが、お母さんが35歳以上のダウン症児は約20%です。ダウン症児と母親の年齢が関与するとの報告もありますが、実際には若年層での出産も多いとされています。
ダウン症は、人間がもつ染色体23対46本のうち、21番目の染色体が1本多いことが原因です。そのため、「21番染色体が3本ある」という意味の21トリソミーとも呼ばれます。
先天的な疾患で、生まれた子は筋肉の緊張が弱く、発達障害や先天性心疾患をもつことが知られています。
ダウン症をもって生まれた場合、以前は20歳前後が平均寿命とされていましたが、医療が発達した現在では60歳を超えており、病気による寿命への影響は少なくなってきました。
ただし、生まれもった先天性異常や合併症にかかる医療費の負担は大きくなります。
ダウン症の症状
ダウン症の症状は、一人ひとり異なります。NIPTではダウン症の疑いが分かりますが、赤ちゃんがどのような症状をもっているかまでは分かりません。
ここでは、ダウン症の主な症状の特徴を紹介します。
身体的特徴
ダウン症の子では、多くが心臓や消化管に先天性の異常がみられると考えられています。加えて筋緊張の低下もあり、ダウン症でない赤ちゃんよりも大人しいイメージをもたれることがあります。
また顔の凹凸が少なく扁平で目は小さくつり上がり、鼻は低いことが特徴です。筋緊張が低く、口をうまく閉じられないケースもあります。首の後ろの皮膚が余って、首が見えなくなることも身体的特徴の一つです。
成長するにつれ、低身長や肥満が目立ってくることもあります。
精神的特徴
同じダウン症でも、人によってIQには差があります。日常会話を問題なく行える子もいれば、言葉が出ない子もいます。ダウン症の小児のIQは、正常小児の約半分と考えられるのが一般的です。
注意欠陥/多動性障害の兆候のある小児も多く、自閉症の併発リスクも高くなります。知的障害や学習障害など、精神的発達の遅れは、早期介入により能力を高められる可能性もあります。
ダウン症の合併症
ダウン症は身体的特徴や精神的特徴のほかに、合併症のリスクも高いことが特徴です。先天的な疾患だけでなく、成人後に起こりやすい合併症もあります。
合併症もNIPTなどの出生前診断では判定できないので、超音波検査といった別の検査による診断が必要です。
先天性心疾患
先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の構造が正常ではない状態です。すべての赤ちゃん約100人に1人の割合で先天性心疾患をもつ赤ちゃんが生まれますが、とくにダウン症と合併するケースが多くあります。
ダウン症の場合に多い先天性心疾患は、以下のとおりです。
- 完全型房室中隔欠損症:ダウン症の先天性心疾患のうち45%を占める
- 不完全型房室中隔欠損症:ダウン症は完全型が多く、不完全型は少ない
- 動脈管開存:房室中隔欠損症よりも頻度は少ないが、ダウン症に多い
- 心室中隔欠損:ダウン症と合併することが多い先天性心疾患の一つ
上記以外にもダウン症の胎児は、さまざまな先天性心疾患をもつ可能性があります。疾患の種類や赤ちゃんの状態によって、必要な処置は異なりますが、多くは乳幼児の間に手術が必要になります。
消化管異常
ダウン症の合併症として、先天性心疾患と同様に多いのが消化管異常です。お母さんのお腹の中で体を作るとき、消化管の成長がうまくいかずに奇形となって現れます。
約5%のダウン症児に、消化管異常が認められるとの報告もあります。具体的には、腸閉鎖や肛門奇形といった症状です。
糖尿病
糖尿病も、ダウン症児に発症の多い傾向にある疾患です。 1型糖尿病と2型糖尿病のうち、ダウン症に多いのは1型糖尿病と考えられています。
1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの分泌に関与する膵臓を自分で破壊してしまう病気です。インスリンがうまく産生・分泌されないため、血糖値を下げられずに高血糖となります。
高血糖が続くと、脳梗塞や心筋梗塞、腎臓病といった合併症を引き起こします。1型糖尿病の場合は、食前または食直後のインスリン注射によって、足りないインスリンを補う治療が必要です。
白内障
通常、白内障は加齢によって頻度が多くなる目の病気です。ダウン症は生まれつき白内障を合併しやすく、ダウン症児は健康な人の約10倍先天性白内障をもっていると考えられています。
白内障とは、目の水晶体と呼ばれる部分が白く濁る病気で、重度の弱視になってしまいます。先天性白内障は手術やメガネ、コンタクトによる矯正が必要で、できるだけ早く手術を受けることが視力の回復につながります。
難聴
新生児聴覚スクリーニング検査で見つかる先天性難聴は、1,000人に1人の割合です。難聴もダウン症児に多い合併症の一つで、40〜80%の割合で難聴の症状があると報告されています。
奇形がある場合は手術、炎症がある場合は薬物療法で聴力が回復する可能性もあり、必要に応じて補聴器も使用します。
ダウン症の診断
ダウン症の診断は、出生前診断で診断できる可能性のある病気です。ただし出生前診断で診断されずに、生まれた後に身体的特徴や合併症によってダウン症が明らかになるケースもあります。
出生前診断
ダウン症は、胎児超音波検査やNIPTでダウン症を疑い、羊水検査や絨毛検査で確定診断されます。
胎児超音波検査とは、妊婦健診で実施されるエコー検査のことです。エコーでは胎児の身体的特徴が分かるため、ダウン症に見られる特徴がエコーで分かれば用水検査や絨毛検査を実施します。
NIPTは、お母さんの血液から胎児のダウン症を発見できる検査です。ダウン症以外の染色体異常の可能性も検査できますが、費用が20万円前後と高額なことがデメリットです。
また、同じような出生前診断に、母体血清マーカー検査やコンバインド検査があります。どちらもNIPTより費用は安いものの、精度は高くありません。
NIPTや母体血清マーカー検査、コンバインド検査でダウン症が陽性の場合、羊水検査や絨毛検査で診断を確定させます。
<出生前診断の流れ>
- 胎児超音波検査・NIPT・母体血清マーカー検査・コンバインド検査
- 羊水検査・絨毛検査
- 2の検査結果で確定診断
出生後診断
出生前診断で問題がなくても、出生後にダウン症が発覚するケースもあります。胎児超音波検査は、胎児の体勢によっては奇形が発見されない場合もあるためです。
また、NIPTや母体血清マーカー検査、コンバインド検査も100%の確率でダウン症を発見できるものではありません。
そのため、出生後の検査や症状で先天性疾患が見つかり、ダウン症を疑われることもあります。また、新生児の身体的特徴からダウン症を疑って血液検査を実施し、ダウン症と診断される可能性もあることを理解しておきましょう。
ダウン症の治療
NIPTといった出生前診断を利用してダウン症疑いとされ、羊水検査や絨毛検査で確定診断された場合、どのような治療法が必要になるかを説明します。
症状に合わせた治療
現在、ダウン症への直接的な治療法は開発されていません。ダウン症は染色体の異常であり、根本的な治療は難しいのが現状です。
そのため、ダウン症による症状や合併症に併せた対症療法が実施されます。
たとえば、先天性心疾患がある場合は心臓の手術、奇形による難聴がある場合は耳の手術といった形です。
症状は一人ひとり異なるため、それぞれに合わせた治療が行われます。また、ダウン症児の年齢に合わせ、長期的な治療が必要になるケースもあります。
本人・家族のサポート
ダウン症の症状に合わせた治療のほかに、本人や家族へのサポートも重要です。
本人や家族が生活しやすくなるように、年齢や症状に合わせた適切な教育によって、知的能力を高めます。また、療育手帳や支援サービスを受けられるため、各市区町村との連携も大切になります。
ダウン症検査としてNIPTを受ける前に知っておきたいこと
出生前診断、とくにNIPTはお母さんの血液だけで胎児の健康状態を把握できるため、便利な検査と勘違いされやすいかもしれません。
「もし、検査結果が陽性だったら……。」妊娠周期が早い段階で、ダウン症が発覚すれば妊娠中絶を考える家庭もあるかもしれません。
実は、NIPTで陽性の場合も100%ダウン症とは言い切れません。精度は99.0%以上と報告されていますが、これはつまり、約100人に1人は陽性と判定されても、実際にはダウン症ではないということです。
簡単にできるからと、気軽な気持ちで受けた検査で陽性と判定され、結果に思い悩ませられる可能性もあります。
NIPTを含め、出生前診断を自ら受ける場合は、カウンセリング体制のしっかりしたクリニックを選びましょう。結果に対して、手厚いサポートを受けられます。
NIPTによるダウン症検査は慎重に
NIPTは新型出生前診断と呼ばれ、お母さんの血液で胎児の染色体・遺伝子疾患を把握できる検査です。ただし、NIPTだけで診断されるのではなく、必ず羊水検査や絨毛検査といった確定診断によって診断が確定されます。
ダウン症児は先天性心疾患や消化管奇形、白内障、難聴などの合併症を併発するリスクが高く、継続的な治療が必要です。症状の重さに合わせたサポートが必要になるため、生まれる前に確認し、準備したいという場合にはNIPTを受けることも検討しましょう。
赤ちゃんや家族が検査結果に振り回されないように、サポートの手厚いクリニックを選ぶのがおすすめです。