胎児ドックやNIPT(新型出生前診断)など、胎児の発育を確認するための検査はさまざまな種類があります。
妊娠の不安からつい「検査しようかな……」と考えがちですが、それぞれの検査の違いやメリット、デメリットはきちんと理解できていますか?
検査の目的を正しく理解しておかないと、不安がより大きなものになってしまう可能性もあります。
この記事では、胎児ドックとNIPTを中心に出生前診断の違いとメリット・デメリットを紹介します。
目次
胎児ドックとは
胎児ドックとは、超音波検査によって胎児の状態を確認する検査です。「胎児スクリーニング検査」や「胎児初期精密検査」、「ベビードック」などとも呼ばれます。
成人用の人間ドックと名前は似ていますが、人間ドックのようにさまざまな種類の検査を実施するわけではありません。
まずは、胎児ドックを行う目的や妊婦健診、出生前診断との違いを紹介します。
検査の目的と検査方法
胎児ドックの目的は、胎児の発育に異常がないかを確認するためです。
超音波検査を用いて、胎児の形状を目で見て把握します。たとえば、頭の形や大きさ、足や手の指の数、口や鼻の形などです。超音波検査なので、胎児の心臓や消化管といった内臓の形まで確認できます。
ただし、胎児ドックですべての奇形が確認できるかというと、必ずしもそうではありません。胎児の姿勢や奇形の大小によっては、胎児ドックの結果と実際の症状が一致しないケースもあります。
そのため、胎児ドックは非確定検査と呼ばれ、結果=診断ではないことを理解する必要があるでしょう。
妊婦健診との違い
妊婦健診とは、妊娠の確定から出産まで、お母さんと胎児の健康を管理するために定期的に実施される健診です。
厚生労働省が示す標準的な妊婦健診は出産までに全部で14回、次のスケジュールで実施されます。
期間 | 妊娠初期〜23週 | 妊娠24週〜35週 | 妊娠36週〜出産まで |
健診回数 | 1〜4回目 | 5〜10回目 | 11〜14回目 |
受信回数 | 4週間に1回 | 2週間に1回 | 1週間に1回 |
検査内容例 | 血液検査 子宮がん検診 超音波検査 | 血液検査 B群溶血性レンサ球菌検査 超音波検査 | 血液検査 超音波検査 |
出典:厚生労働省「妊婦健診 Q&A」
妊婦健診では、胎児ドックと同様に超音波検査が実施されますが、その種類と実施時期が異なります。胎児ドックは一般的に妊娠初期(妊娠10〜13週)・中期(妊娠18〜20週)、後期(妊娠28〜30週)に分けて実施されます。
また妊婦健診では通常、超音波検査の結果は胎児の断面画像です。しかし胎児ドックでは撮影した画像を元に胎児の形状を3Dや4Dで立体的に表せるものもあり、より結果が分かりやすくなるメリットもあります。
出生前診断との違い
出生前診断とは、胎児に奇形や発育不良がないかを確認する検査です。
胎児ドックは出生前診断の一つで、他にもNIPT(新型出生前診断)や母体血清マーカー検査、羊水検査などがあります。
出生前診断の種類 | 超音波検査 (胎児ドックを含む) | NIPT | 母体血清マーカー | コンバインド検査 | 羊水検査 | 絨毛検査 |
検査の種類 | 非確定診断 | 非確定診断 | 非確定診断 | 非確定診断 | 確定診断 | 確定診断 |
検査方法 | 超音波検査 | 採血 | 採血 | 採血 超音波検査 | 母体の腹部に注射針を刺して羊水を採取 | 母体の腹部に注射針を刺して絨毛を採取 |
流産リスク | なし | なし | なし | なし | 1〜3/1,000人 | 1/100人 |
出生前診断は大きく非確定診断と確定診断に分類され、非確定診断で異常が発見された場合、確定診断で診断を確定させます。
どれか一つの検査でなく、複数の出生前診断を組み合わせて行うこともあります。
胎児ドックとNIPTの費用
胎児ドックやNIPT、その他の出生前診断は、すべて実施すればよいと考える方もいるかもしれません。しかし、胎児ドックの費用は一般的に3〜5万円、NIPTにいたっては20万円程度の費用が必要です。
出生前診断の費用相場は、以下のとおりです。
出生前診断の種類 | 費用相場 |
胎児ドック | 3〜5万円 |
NIPT | 20万円前後 |
母体血清マーカー検査 | 2〜3万円 |
コンバインド検査 | 3〜5万円 |
羊水検査 | 10〜20万円 |
絨毛検査 | 10〜20万円 |
いずれの検査もクリニックによって費用やサービスに差があるため、相場より安かったり高かったりするケースもあります。
胎児ドックのメリット・デメリット
胎児ドックの主なメリットは、以下のとおりです。
- 母体の負担なく検査できる
- NIPTより費用が安い
- その場で結果が分かる
出生前診断の中でも、確定診断ができる羊水検査や絨毛検査はお母さんのお腹に注射針を刺して検査材料を採取するため、一定の流産・早産リスクがあります。
しかし胎児ドックはお腹にゼリーを塗って、超音波を当てるだけなのでリスクはありません。費用もNIPTのおよそ4分の1で、比較的安価に受けられる検査です。
また、他の出生前診断とは異なり、その場で結果が分かることもメリットです。ただし、胎児ドックには次のデメリットもあります。
- 確定診断ではないので検査結果が間違っている可能性もある
- 染色体・遺伝子異常の可能性は超音波検査では分からない
胎児ドックは、超音波検査を用いた出生前診断です。あくまで胎児の体の形状から、奇形や異常を判断します。染色体や遺伝子の異常を直接、検査するものではないことを理解しておきましょう。
また非確定診断であるため、胎児ドックだけでは胎児の疾患を診断できません。胎児ドックで異常が見つかった場合は、確定診断である羊水検査や絨毛検査を追加検査する必要があります。
NIPT(新型出生前診断)のメリット・デメリット
NIPTを受けるメリットは、以下のとおりです。
- 胎児ドックでは分からない染色体・遺伝子異常が分かる
- 採血で検査できるので流産・早産のリスクがない
採血だけで出生前診断ができるNIPTは、母体や胎児に影響を与えることなく検査できることがメリットです。また、胎児ドックでは分からなかった染色体・遺伝子異常の可能性を直接検査できます。
ただし、NIPTはメリットだけではありません。NIPTのデメリットは、次のとおりです。
- すべての染色体・遺伝子異常が分かるわけではない
- 費用が高額
- 結果が出るまでに時間がかかる
NIPTでは特定の染色体異常の可能性を検出するため、すべての染色体異常が分かるものではありません。また、検査には専門的な技術が必要なため、結果が出るまでに1〜2週間程度かかります。
母体や胎児に影響の少ない検査ですが、一方で検査費用は20万円前後と高額です。
胎児ドックとNIPTどちらを選ぶべき?
胎児ドックとNIPTには、それぞれメリットとデメリットがあるため、どちらを選ぶか迷いますよね。そもそも出生前診断を受けるべきかどうかも含めて、よく考えて決める必要があるでしょう。
ここでは、ご家庭のパターン別にどちらの出生前診断を選ぶべきか考えてみましょう。
費用がかかっても染色体・遺伝子検査をしたい場合
ある程度費用がかかってもよいから染色体や遺伝子異常の可能性を把握したい、という場合はNIPTを検討しましょう。胎児ドックでは体の見た目のおおまかな異常しか発見できないため、精度面ではNIPTに劣ります。
ただし、NIPTでは胎児にどのような奇形が表れているかを確認できないため、あわせて超音波検査をする場合もあります。受診予定のクリニックで、NIPTの結果が陽性になった場合のサポートについても確認しておくとよいでしょう。
費用は抑えて大きな異常だけ見つけたい場合
妊婦健診だけでは心もとないけど、費用はかけられないという場合はNIPTではなく、胎児ドックを検討するとよいでしょう。
胎児ドックは妊婦健診の超音波検査より詳しいため、より胎児の発育異常を見つけやすいことがメリットです。
ただし、胎児ドックで異常が見つからない場合でも、出生後に染色体・遺伝子異常の可能性が見つかるケースもあることを理解しておきましょう。
胎児ドックやNIPTを受ける前の心構え
胎児ドックやNIPTなどの出生前診断は任意の検査で、希望すれば基本的には誰でも受けられます。しかし、「もしその結果が陽性だったら」と考え、慎重に受けるかどうかを考える必要があります。
出生前診断を受けるメリットは、以下のとおりです。
- 出生後の育児環境を事前に整えられる
- 検査による安心感を得られる
胎児の発育不全や染色体異常を事前に知ることで、出産後の育児環境を整えておけます。たとえば、退院後のフォローを受ける病院について事前に担当医と相談し、育児サポートが受けられるサービスを探しておけることがメリットです。
ただし結果が陽性だった場合、精神的な負担が大きくなったり、中絶を考えたりする原因にもなります。
出生前診断を検討する際は、担当医とよく相談して検査内容を正しく理解したうえで、検査を受けるようにしましょう。
まとめ
胎児ドックは、胎児の発育不良や奇形を発見するための出生前診断です。母体や胎児に負担をかけず、その場で結果が分かるメリットもあります。
NIPTも出生前診断の一種で、お母さんからの採血で染色体や遺伝子異常の可能性を把握できます。NIPTは胎児ドックよりも費用が高く、結果の遅いことがデメリットです。
どの出生前診断にも同じことがいえますが、検査の目的やメリット・デメリットを正しく理解し、選択することが大切です。