生理前後のイライラ対策5選｜PMSの原因と婦人科での治療法を医師が解説

はじめに：生理のたびにやってくる、どうしようもないイライラや腹痛などの正体とは？

生理が近づくと、なぜか気持ちが落ち着かなくなり、ささいなことでイライラしてしまう…そんな経験はありませんか？

仕事や勉強に集中できなかったり、パートナーや家族にきつく当たってしまい、後で自己嫌悪に陥ったりすることもあるかもしれません。

そのつらい症状は、あなたの性格の問題ではなく、「PMS（月経前症候群）」が原因かもしれません。PMSは、生理が始まる前に心身に現れるさまざまな不調の総称です。

この記事では、生理前後のイライラの原因と、今日から始められるセルフケア、そして婦人科で受けられる専門的な治療法について、詳しく解説します。もう「いつものことだから」と一人で抱え込まず、正しい知識を身につけて、つらい時期を乗り越えるためのヒントを見つけましょう。

なぜ生理前や生理中にひどくイライラするの？主な2つの原因

生理の前になると、普段は気にならないような些細なことまで腹立たしく感じてしまうことがあると思います。その背景には、主に2つの原因が考えられます。

原因①：女性ホルモンの急激な変動の影響

私たちの心と体は、女性ホルモンである「エストロゲン（卵胞ホルモン）」と「プロゲステロン（黄体ホルモン）」の働きによって、常に繊細なバランスを保っています。

しかし、排卵後から生理が始まるまでの期間（黄体期）には、これらの女性ホルモンが急激に上昇した後、減少に転じます。このホルモンの大きな波が、脳の機能にも影響を及ぼすのです。

特に、精神の安定を保つ働きのある神経伝達物質「セロトニン」の分泌が、ホルモン変動の影響で低下してしまうことが分かっています。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、不足すると気分の落ち込みや不安、そしてイライラといった感情の乱れを引き起こしやすくなります。

つまり、生理前のイライラは、ホルモンの急激な変化という身体的なメカニズムによって引き起こされる、自然な反応のひとつと言えるのです。

原因②：ストレスや不規則な生活習慣など

ホルモンバランスの乱れに加えて、日常生活の中に潜む要因もPMSの症状を悪化させることがあります。

仕事のプレッシャーや人間関係の悩みといった精神的なストレスは、自律神経のバランスを崩し、ホルモン分泌にも影響を与えます。

また、睡眠不足、栄養バランスの偏った食事、運動不足などの不規則な生活習慣も、症状を助長する一因です。特に、血糖値の急激な変動はイライラを招きやすいため、甘いものや炭水化物の摂りすぎには注意が必要です。

このように、ホルモンの変動という内的要因と、ストレスや生活習慣という外的要因が複雑に絡み合うことで、つらいイライラの症状が現れると考えられています。

その不調はPMS（月経前症候群）かも？他の症状もチェック

「イライラ」以外にも気になる症状がある場合、それはPMSの一部かもしれません。PMSについて正しく理解し、ご自身の状態を確認してみましょう。

PMSとは？代表的な症状（イライラ、頭痛、むくみなど）

PMS（Premenstrual Syndrome：月経前症候群）とは、「月経開始の3〜10日くらい前から始まる精神的あるいは身体的な症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するもの」と定義されています。

症状の種類は200以上あるとも言われ、その現れ方には大きな個人差があります。

【代表的な精神神経症状】

• 情緒不安定、イライラ、怒りっぽい
• 抑うつ、気分の落ち込み
• 不安感、緊張感
• 集中力の低下
• 睡眠障害（眠気または不眠）

【代表的な身体的症状】

• 下腹部の痛み、張り
• 腰痛
• 頭痛、頭が重い
• 乳房の張り、痛み
• むくみ、体重増加
• だるさ、倦怠感
• 肌荒れ、ニキビ

これらの症状がいくつか組み合わさって現れることが一般的です。

セルフチェックでPMSの可能性を確認

以下の項目に当てはまるか、ご自身の状態を振り返ってみましょう。

□生理が始まる前に、いつも同じような不快な症状に悩まされる
□それらの症状は、生理が始まると自然に楽になったり、消えたりする
□イライラや気分の落ち込みのせいで、家族や友人と喧嘩をしてしまうことがある
□頭痛やだるさなどで、仕事や家事、勉強が手につかなくなる
□上記の症状によって、日常生活に支障が出ていると感じる

もし、これらの多くに当てはまるようであれば、あなたの不調はPMSである可能性が高いと言えます。

【今日からできる】仕事中・勉強中でもできるPMS対策セルフケア

つらい症状を少しでも和らげるために、日常生活の中で取り入れられるセルフケアがあります。薬に頼る前に、まずはご自身の生活を見直すことから始めてみましょう。

質の高い十分な睡眠

睡眠不足は、心身の疲労回復を妨げるだけでなく、イライラの原因となるセロトニンの分泌を低下させてしまいます。

毎日なるべく同じ時間に就寝・起床し、生活リズムを整えることが大切です。寝る直前までスマートフォンやパソコンを見ていると、ブルーライトが脳を覚醒させてしまい、眠りの質を下げてしまいます。就寝1時間前には電子機器の電源を切り、リラックスできる環境を整えましょう。

バランスの取れた食事

食事は体を作る基本です。特にPMSの時期には、血糖値のコントロールと、セロトニンの生成を助ける栄養素を意識することが重要です。

セロトニンの材料となる「トリプトファン」を多く含む、豆腐・納豆などの大豆製品、チーズ・牛乳などの乳製品、バナナなどを積極的に摂るのがおすすめです。

反対に、甘いお菓子やジュース、白米やパンなどの精製された炭水化物は、血糖値を急激に上昇させた後、急降下させるため、イライラや気分の落ち込みを招きやすくなります。食事は3食きちんと摂り、血糖値の上昇が緩やかな玄米や全粒粉パンなどを選ぶと良いでしょう。

軽いストレッチや適度な運動

ウォーキングやヨガ、軽いジョギングなどの有酸素運動は、血行を促進し、脳内のセロトニン分泌を活発にする効果が期待できます。

運動によって気分がリフレッシュされ、ストレス解消にもつながります。激しい運動をする必要はなく、「少し汗ばむ程度」の運動を週に2〜3回、継続して行うことが理想です。忙しい場合は、一駅手前で降りて歩いたり、エレベーターを階段に変えたりするだけでも効果的です。

リラックスできるアロマやハーブティーを取り入れる

香りは、脳に直接働きかけ、自律神経のバランスを整える手助けをしてくれます。

ラベンダーやカモミール、ベルガモットなどのアロマオイルは、リラックス効果が高いことで知られています。アロマディフューザーで香りを楽しんだり、ハンカチに数滴垂らして持ち歩いたりするのも良いでしょう。

また、カモミールティーやペパーミントティーなどのハーブティーは、ノンカフェインで心身を落ち着かせてくれるため、仕事の合間や就寝前の一杯におすすめです。

症状を記録し対策を立てる

自分の不調がいつ、どのような時に、どのくらいの強さで現れるのかを記録してみましょう。手帳やアプリなどを活用し、生理周期と合わせて体調や気分の変化をメモしておくと、自分のPMSのパターンが見えてきます。

「生理の5日前からイライラし始める」「睡眠不足の翌日は特に症状が重い」など、傾向が分かれば、その時期に合わせて予定を調整したり、意識的にセルフケアを取り入れたりするなど、事前に対策を立てやすくなります。

また、婦人科を受診する際にも、この記録が正確な診断と適切な治療選択の助けになります。

セルフケアで改善しないなら婦人科へ。受診を考えるべきサイン

セルフケアを続けても症状が改善しない場合や、症状が日常生活に大きな影響を及ぼしている場合は、我慢せず早めに婦人科を受診することを検討しましょう。

症状が重く、仕事や学業に深刻な支障が出ている

イライラや集中力の低下によって仕事でミスが増えたり、重要な会議で意見が言えなかったりする。あるいは、ひどい倦怠感や腹痛で会社や学校を休まざるを得ないなど、社会生活に具体的な影響が出ている場合は、専門的な治療が必要なサインです。

精神的・身体的な症状が強い

自分ではコントロールできないほどの激しい怒りを感じたり、ささいなことで涙が止まらなくなったりする場合。また、痛み止めを飲んでも治まらない頭痛や腹痛があるなど、症状そのものが非常に強く、つらい場合も受診をおすすめします。

気分の落ち込みが激しい

特に精神的な症状が強く、イライラだけでなく、「自分は価値のない人間だ」と感じるような強い自己否定感や、絶望的な気分に襲われる場合は注意が必要です。これはPMSよりも精神症状が重い「PMDD（月経前不快気分障害）」の可能性も考えられます。一人で抱え込まず、必ず専門医に相談してください。

婦人科クリニックでできるつらい症状への専門的なアプローチ

婦人科では、問診や検査を通じて症状の原因を探り、一人ひとりのライフスタイルや希望に合わせた治療法を提案します。主な治療法には、ホルモン療法や漢方薬などがあります。

ホルモンバランスを整える「低用量ピル（LEP製剤）」

PMSの根本的な原因である「女性ホルモンの変動」を抑えるために、低用量ピル（LEP製剤）が用いられることが多いです。LEP製剤は、排卵を抑制することでホルモンの波を穏やかにし、生理前に起こるさまざまな症状を根本から改善する効果が期待できます。

イライラなどの精神症状はもちろん、腹痛や頭痛、肌荒れといった身体症状にも有効です。月経困難症の治療薬として保険適用されており、避妊効果も得られます。副作用として吐き気や不正出血、ごくまれに血栓症のリスクなどがありますが、医師が丁寧に説明し、定期的な診察で安全性を確認しながら治療を進めます。

体質から改善を目指す「漢方薬」

東洋医学では、心と体のバランスの乱れが不調を引き起こすと考えます。漢方薬は、その人の体質（証）や症状に合わせて処方され、体全体のバランスを整えることで症状の改善を目指す治療法です。

例えば、イライラや気分の落ち込みが強い方には「加味逍遙散（かみしょうようさん）」、冷えやむくみ、頭痛が気になる方には「当帰芍薬散（とうきしゃくやくさん）」などが処方されることがあります。ホルモン剤に抵抗がある方や、体質から見直したいという方に適した選択肢です。

生活習慣の改善指導

薬物療法と並行して、食事や運動、ストレスマネジメントに関する専門的なアドバイスも行います。医師やカウンセラーと一緒に生活習慣を見直すことで、薬の効果を高め、より健やかな毎日を送るための土台を作ります。

まとめ：いつもの不調と諦めないで。専門医と一緒に快適な毎日を目指しましょう

生理前のイライラや心身の不調は、決して「気のせい」や「我慢が足りない」からではありません。それは、女性ホルモンの影響によって起こるPMSという医学的な症状です。

まずは、この記事で紹介したセルフケアを試してみてください。それでも症状が改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほどつらいと感じる場合は、一人で悩まず、お早めに婦人科にてご相談ください。

クリニックTENでは、患者様一人ひとりの症状とライフプランに寄り添い、低用量ピルや漢方薬など、最適な治療法をご提案します。専門医と一緒に、憂鬱な時期を乗り越え、もっと快適な毎日を目指しましょう。